仕組み解説公開日 読了目安 約8分

陰紋・中陰・陽紋の違い|家紋の描き方と紋付での格の使い分け

同じ「梅鉢」の家紋でも、塗りつぶした形・太い線で縁取った形・細い線だけの形の3通りがあります。これが陽紋(ひなたもん)・中陰(ちゅうかげ)・陰紋(かげもん)の違いです。見た目の好みだけでなく、紋付の着物では格の高さにも関わります。この記事では、3つの描き方の見分け方、紋名への付け方、着物や喪服での使い分け、白抜きの紋との関係、陰紋を自分で作るときの線の太さの目安までをまとめます。

陽紋・中陰・陰紋は「塗り」か「線」かの違い

家紋の描き方は、図案の形を塗りつぶすか、輪郭だけを線で描くかで大きく2つに分かれます。塗りつぶしたものが陽紋(日向紋・ひなたもん)、輪郭だけを線で描いたものが陰紋(かげもん)です。陰紋のうち、線を太くしたものを中陰(ちゅうかげ・中陰紋)と呼び、陽紋と陰紋の中間の見た目になります。

描き方読み方見た目紋名への付け方
陽紋(日向紋)ひなたもん図案を塗りつぶす。いちばん基本の形付けない(丸に梅鉢)
中陰(中陰紋)ちゅうかげ太めの線で輪郭を描く。遠目でも形が読める「中陰」を付ける(丸に中陰梅鉢)
陰紋かげもん細い線で輪郭だけを描く。軽やかで控えめ「陰」を付ける(丸に陰梅鉢)

ポイントは、陽・陰が「色」ではなく「形の描き方」の区別だということです。黒い紋でも白い紋でも、図案が塗りつぶされていれば陽紋、線だけなら陰紋です。後で触れる「紺地に白抜き」も、白く見える部分が塗りつぶされた形であれば陽紋の仲間になります。

  • 陽紋:花びらや葉が「面」として見える。図案の切れ込み(葉脈・花しべ)は地の色で細く抜いて表す
  • 中陰:花びらの外形を太い線でなぞる。陽紋より軽く、陰紋より力強い
  • 陰紋:細い線だけで描く。面がないぶん、遠くからは形がわかりにくい

紋名では「外郭+陰・中陰+図案」の順に読む

家紋の名前は、外側の枠(外郭)・描き方・図案の順につなげて読むのが一般的です。陽紋は基本の形なので名前には何も付けず、陰紋なら「陰」、中陰なら「中陰」を図案の前に入れます。

形紋名読み方
丸の中に塗りつぶしの梅鉢丸に梅鉢まるにうめばち
丸の中に細い線の梅鉢丸に陰梅鉢まるにかげうめばち
丸の中に太い線の梅鉢丸に中陰梅鉢まるにちゅうかげうめばち
隅切り角の中に細い線の桔梗隅切り角に陰桔梗すみきりかくにかげききょう
外郭なしで太い線の片喰中陰片喰ちゅうかげかたばみ

外郭(丸・隅切り角・亀甲など)は塗りのまま残し、中の図案だけを陰にするのが最も多い形です。外郭まで線にした形もあり、その場合の呼び方は家や資料によって異なります。外郭の種類と読み方は家紋の「丸に」の意味と外郭の種類で詳しくまとめています。

紋付の着物での格の違い|陽紋が正式、陰紋は略式

着物に入れる紋では、描き方が格の高さに直結します。一般に、陽紋(日向紋)がもっとも格が高く正式、中陰・陰紋は略式とされます。さらに紋の入れ方(染め抜き・縫い紋)と紋の数(五つ紋・三つ紋・一つ紋)の組み合わせで格が決まります。

要素格が高い→格が低い(略式)
描き方陽紋(日向紋)中陰陰紋
入れ方染め抜き紋摺り込み紋縫い紋(刺繍)
紋の数五つ紋(背・両袖・両胸)三つ紋(背・両袖)一つ紋(背)
  • 黒留袖・喪服(黒紋付):染め抜きの日向紋を五つ入れるのが一般的な正装
  • 色留袖:五つ紋なら黒留袖と同格、三つ紋・一つ紋にすると着られる場面が広がる
  • 色無地・訪問着:一つ紋を入れると準礼装。陰紋や縫い紋にすると控えめで、お茶会や入学式などにも使いやすい
  • 羽織:男性の黒紋付羽織袴は染め抜き日向五つ紋が第一礼装

陰紋は「略式」というと格下に聞こえますが、裏返せば使える場面が広いということです。慶事にも弔事にも、少し改まった集まりにも着ていける1枚にしたいときは、あえて陰紋の一つ紋を選ぶ人も少なくありません。どの紋を入れるかは、着る場面と地域の習わしを呉服店に相談して決めましょう。

「白抜き」「染め抜き」と陰紋は別のもの

紺の法被やのれんに白く入った家紋を見て「これは陰紋?」と迷う人は多いですが、多くの場合は陽紋です。黒や紺の生地に紋の形だけ染めずに白く残す「染め抜き」は、塗りつぶした形(面)が白く見えているだけなので、描き方としては陽紋になります。

  • 紺地に白い面の梅鉢 → 陽紋(白抜きの陽紋)
  • 紺地に白い細線の梅鉢 → 陰紋(白抜きの陰紋)
  • 白地に黒い面の梅鉢 → 陽紋
  • 白地に黒い細線の梅鉢 → 陰紋

つまり「白抜き」は色の話、「陰・陽」は形の話です。のれんや法被では、遠くからでも形が読める陽紋か中陰を白抜きにするのが定番です。陰紋は線が細いため、生地に染めると線がかすれたり、離れると見えにくくなったりします。

陰紋・中陰を作るときの線の太さの目安

陰紋と中陰に決まった線幅の規格はありませんが、中陰は陰紋のおよそ2倍の太さで描かれることが多く、並べるとはっきり違いがわかります。家紋メーカーでは、図案の大きさ(半径)に対して陰紋を約4%、中陰を約7.5%の太さの線で描いています。「丸に〜」の紋を幅10cm(丸の直径は約9.6cm)で使うと、線の太さはおおよそ次のとおりです。

描き方幅10cmのときの線幅幅3cmのときの線幅向いている用途
陽紋(面で描く)(面で描く)小さなシール・判子・刺繍・遠くから見る幕
中陰約2.9mm約0.9mm法被・のれん・Tシャツ・年賀状
陰紋約1.5mm約0.5mm紋付の略式・印刷物・大きめのデザイン

小さく使うほど陰紋の線は細くなり、印刷ではかすれ、カッティングシートでは切れやすくなります。幅3cm以下で使うなら陽紋か中陰を選ぶのが無難です。データにするときの注意点は家紋のSVG・透過PNGデータの作り方にまとめています。

  1. 1

    図案と外郭を選ぶ

    家紋メーカーで図案(梅鉢・桔梗など)と外郭(丸に・隅切り角に など)を選びます。

  2. 2

    描き方を切り替えて見比べる

    陽紋・中陰・陰紋を順に押すと、同じ紋が3通りに描き変わります。紋名も「丸に陰梅鉢」のように自動で変わります。

  3. 3

    使う大きさで確かめる

    画面を離れて見たり、実際の大きさに縮めて印刷したりして、線がつぶれないか確認します。

  4. 4

    SVG か PNG で保存する

    拡大して使うなら SVG、資料や年賀状に貼るなら背景透過の PNG で保存します。

よくある質問

陰紋と中陰の違いは何ですか?
どちらも図案の輪郭を線で描いた紋ですが、線の太さが違います。細い線で描いたものが陰紋、太めの線で描いたものが中陰(中陰紋)です。中陰は陰紋より力強く、陽紋より軽い、中間の見た目になります。
陽紋と日向紋は同じですか?
同じです。図案を塗りつぶした基本の描き方を、陽紋または日向紋(ひなたもん)と呼びます。紋の名前には「陽」を付けず、「丸に梅鉢」のように図案名だけで呼びます。
喪服の家紋は陰紋でもいいですか?
一般には、喪服(黒紋付)は染め抜きの日向紋を五つ入れるのが正式とされます。陰紋は略式の扱いになるため、喪服に入れるなら日向紋を選ぶのが無難です。地域や家の習わしもあるので、仕立てる呉服店に確認しましょう。
紺地に白く抜いた家紋は陰紋ですか?
多くは陽紋です。紋の形を面のまま白く染め抜いたものは、色が白いだけで描き方は陽紋です。白い細い線だけで描かれていれば陰紋になります。
陰紋の家紋はどうやって作りますか?
家紋メーカーで図案と外郭を選び、描き方を「陰紋」または「中陰」にすると、図案の輪郭だけを線で描いた紋になります。紋名と読み方も自動で表示され、SVG や背景透過 PNG で保存できます。

この記事で紹介したツール

あわせて読みたい

仕組み解説約9分

家紋の図案の意味と由来|三つ巴の右・左、梅鉢・桔梗・九曜・鷹の羽

家紋の図案には、植物・文様・天体・道具など、それぞれに込められた意味や由来があります。三つ巴はなぜ神社に多いのか、梅鉢と天満宮の関係は、九曜の9つの丸は何を表しているのか。この記事では、代表的な家紋の図案の意味と、その紋を使った有名な家、混乱しやすい三つ巴の「右」と「左」の見分け方をまとめます。自分の家紋の由来を知りたい人にも、オリジナル家紋の図案を選びたい人にも役立つ内容です。

記事を読む →
仕組み解説約8分

家紋の「丸に」とは|外郭の種類と意味、紋名の読み方のルール

「丸に三つ柏」「隅切り角に三つ引き」。家紋の名前によく出てくる「〜に」は、図案を囲む外側の枠(外郭・がいかく)を表しています。日本の家紋は、この外郭と図案、そして陰陽の描き方を組み合わせて無数のバリエーションを作ってきました。この記事では、「丸に」が多い理由、丸・細輪・太輪・二重輪・隅切り角・菱・亀甲など代表的な外郭の形と読み方、紋名を組み立てるルール、正しく読むためのコツをまとめます。

記事を読む →
使い方ガイド約8分

自分の家の家紋の調べ方|お墓・仏壇・着物で探して紋名を特定する

「うちの家紋って何だっけ?」と思っても、ふだんの暮らしで家紋を目にする機会はほとんどありません。けれど、葬儀や法事、喪服の仕立て、お墓の建て替えなど、急に家紋が必要になる場面は意外と多いものです。この記事では、家紋が残っていそうな場所の探し方、名字から調べるときの注意点、見つけた家紋の名前を特定する手順、女紋や替紋など知っておきたい知識までをまとめます。

記事を読む →